鍾会、嵆康に会いに行くの巻・その2

鍾会は、思考は緻密かつ理路整然、また才能にあふれていました。
そんな彼が、嵆康という人物の噂を聞きつけます。嵆康もまた、学問に関して高い知識を持ち、すぐれた評判を得ていました。鍾会は嵆康に興味を持ち、学問仲間を誘って、皆で嵆康の元を訪ねます。

鍾会たちが嵆康の家に着くと、嵆康は家の外の木の下で、向秀とともに刀を鍛えているところでした。刀鍛治に集中し、鍾会たちが近づいていっても、まるで自分たち以外は誰もいないかのような態度で、鍾会たちのほうを見向きもしません。

鍾会は座って様子を眺めていましたが、やはり嵆康は無視したままで、鍾会も敢えて自分から声をかけることはしませんでした。

いつまでたっても彼らは無言のまま。鍾会は諦めて立ち上がりました。そのとき、ふいに嵆康が言いました。

「何を聞いてここに来たのか。何を見て去ろうとするのか」

鍾会は答えました。

「聞くことを聞いたから来ただけだし、見たことを見て帰るだけだ」

…不毛だ。



「簡傲3」より。
この話は正史にも載ってます。世説新語の話はここで終わりますが、さらに正史は「このことを鍾会は根に持ち、のちに嵆康が司馬昭の不興を買ったときに、嵆康を殺すことを進言した」としています。で、司馬昭が同意したので、地位(司隷校尉)を利用して嵆康の罪状を捏造した…とされています。

時系列的に見て、この話が文書投げ込みの後でしょうか。そうでなければ、根に持ってる人間が論文見せに行くか?と。鍾会はあんまり寛大ではないようですし。
しかし、この話の冒頭の鍾会は嵆康のことを噂で知っていた程度なので、投げ込みが先でも「文学5」と流れが噛み合わないですね。正史のこのくだりも、裴松之の引用なので、史実は闇の彼方。

そして後世に出来上がる、不思議ちゃんな鍾会像。

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