鍾会、他人の物を欲しがるの巻

鍾会の甥に荀勗(じゅんきょく。荀彧や荀攸の親戚)という人物がいたのですが、2人の仲は…良くありませんでした。まあ…鍾会には珍しいことではないのかもしれません。

荀勗は100万銭もする高価な剣を持っていたのですが、その剣は母親の鍾夫人(鍾会の女きょうだい。姉か?)に預けてありました。

その剣が欲しくなった鍾会は、荀勗の筆跡を真似て鍾夫人に手紙を送ります(鍾会は、人の筆跡を真似るのが大の得意でした)。荀勗のフリして「士季叔父上に剣を送ってください」という意味のことを自分で書いたわけです。手紙を受け取った鍾夫人は、偽手紙とは気がつかずに、剣を鍾会に渡してしまいました。そして鍾会は、そのまま剣を自分のものにしてしまいます。

人はそれを犯罪と呼ぶ…。

それを知った荀勗は、鍾会の仕業だと気がつきますが、取り返そうにもいい手段が浮かばず、困ってしまいました。言い争いで鍾会に勝てるわけがありませんし、まして相手は時の権力者の寵臣、後々自分の生命まで危うくなりかねません。それでも荀勗は、剣を取り返せないまでも、なんとか仕返しだけでもしてやろうと、一生懸命考えを巡らせました。

その後、鍾会は、兄の鍾毓とともに、1000万銭かけて家を新築しましたが、準備が整わず、まだ入居できないでいました。そこで荀勗にアイディアが浮かびます。

絵が得意な彼は、まだ人気(ひとけ)のない鍾会の新居に忍び込み、門堂(門の横にある部屋)に鍾繇の肖像をこっそりと描いてきました。絵の出来といったら素晴らしく、衣冠も容貌もまるで生きているかのようでした。

新居の門をくぐって、この絵を見た鍾会と鍾毓は、大いに感動し(原文「便(すなわち)大感動」)強く胸をうたれてしまいました。そして、この家に住もうという気持ちもなくなってしまい、この家はそのまま廃屋になってしまったといいます。

…詰めの甘さを大露呈。



「巧芸4」より。
この話は荀勗が主役。士季さん、それは犯罪では? しかし最後にはやり込められてしまうあたりが鍾会。なお、この話の最大の被害者は、荀勗よりもむしろ、何もしてないのにとばっちりだけ受けてしまった鍾毓だと思われます。

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